コンピューティングパワー(算力)がどこへ向かうか——その先にいる人々を、蘇CEOは自らのステージに招いている。
これは比喩ではない。AMDが最近開催した決算説明会の電話会議において、蘇姿豊CEOのスピーチ台の隣に立っていたのは、チップ設計エンジニアではなく、主要なクラウド事業者およびデータセンター顧客の代表だった。この光景そのものが、ひとつの明確なサインである:AMDのデータセンター事業は、「チップの販売」から「エコシステムの提供」へと進化を遂げたのだ。
7000億ドル——単なる数字ではない
AMDの時価総額は、最近7000億ドルを突破した。この数字は10年前にはほとんど想像もできなかったものだ。当時のAMDは、PCおよびサーバー向けCPU市場でIntelと激しく競い合っており、株価は長期間にわたり一桁台で推移していた。
しかし、今日の物語はまったく異なる。
AMDの時価総額上昇を牽引している原動力は、Ryzenプロセッサの販売台数でもなければ、Radeonグラフィックスカードがゲーマーの間でどれほど人気があるかでもない。それはデータセンター事業である。
AIコンピューティングパワーへの需要が爆発的に高まる中、データセンターは単なる「企業ITインフラ」から、「世界で最も価値のある不動産」として再定義されつつある。そしてAMDのMI300シリーズアクセラレータは、まさにこの歴史的転換点にタイミングよく登場した。
NVIDIAの「影」の下で、AMDが正しく手掛けたこと
世間がNVIDIAのH100、B200、GB200といった製品について熱心に議論する中、AMDは一見地味だが、実用性に富んだ戦略を選択した。
第一に、「最高峰」を狙わず、「十分な性能」を追求した。 NVIDIAのフラッグシップチップの性能は確かに業界トップクラスだが、その価格もまたトップクラスだ。多くの学習・推論用途において、MI300Xの性能はすでに「十分に優れている」。そしてその価格差分は、そのまま顧客の利益率向上に直結する。
第二に、「オープン性」を擁護した。 AMDのソフトウェアスタック「ROCm」は、CUDAに比べてエコシステムの充実度ではやや劣るものの、そのオープンな戦略は、「NVIDIAにロックインされたくない」と考える顧客層を着実に引きつけている。特に既に大規模導入を進めている顧客にとって、選択肢が増えることは、交渉力の向上にもつながる。
第三に、蘇姿豊CEO自身のパーソナルブランド力。 これは決して冗談ではない。業界内における蘇CEOの信頼性と親和性は、それ自体が一種のビジネス資産となっている。顧客がAMDと交渉する際、相手側に立っているのは、単に財務数値を読み上げるだけの職業経営者ではなく、技術を深く理解し、顧客の課題を真正に共有できるCEOであることを知っているのだ。
真の脅威はGPUではなく、システム全体にある
AMDのGPUがNVIDIAに追いつこうとしている一方で、CPU分野ではデータセンター市場での主導的地位をほぼ確立しつつある。
EPYCサーバープロセッサは、クラウド事業者における採用率を継続的に伸ばしている。さらに重要なのは、AMDがCPUとGPUを統合した「システムレベルのソリューション」を構築しようとしている点だ。 プロセッサからアクセラレータ、さらには相互接続技術に至るまで、すべてを自社で提供しようとしている。
これは一体何を意味するのか? それは、顧客が単一のベンダーと取引するだけで、データセンター向けコンピューティングパワーのフルスタックソリューションを調達できるということだ。調達担当者にとっては、NVIDIAからGPUを、IntelからCPUを、Broadcomからネットワークチップをそれぞれ購入し、自社で組み立てるよりも、はるかに簡素でリスクの少ない選択となる。
しかし、祝賀の後には懸念も
7000億ドルという時価総額の裏には、冷静に見極めるべき現実もある。
AMDのデータセンター部門の収益は急成長しているものの、その基盤は依然としてNVIDIAに比べてはるかに小さい。2025会計年度において、NVIDIAのデータセンター部門収益は1000億ドルを超えるのに対し、AMDの同部門収益は約150億ドル程度にとどまっている。この差は、数十パーセントの話ではなく、桁違いのギャップなのだ。
加えて、AMDの高評価は、今後数年の成長期待をすでに織り込み済みの状態にある。もしMI300シリーズの次世代製品が競争力を維持できず、あるいはNVIDIAが価格戦略を変更した場合、AMDの株価は急激な変動を起こす可能性がある。
もう一つ、興味深い視点
とはいえ、別の角度から見れば、AMDのストーリーはNVIDIAのそれよりもむしろ示唆に富んでいるかもしれない。
NVIDIAの成功は、「我々が最高のチップを持っているから、顧客は必ず我々にやって来る」というロジックに基づいている。これは典型的な「供給主導型」ビジネスモデルだ。
一方、AMDの成功のロジックは、「顧客が何を必要としているか——それを我々が提供する」というものに近い。AMDは単一指標での業界トップを追い求めず、むしろトータルソリューションとしてのコストパフォーマンスの最適化を目指している。
コンピューティングパワーの需要が、「ごく少数の大手企業による軍拡競争」から、「あらゆる産業の基盤インフラ」へと広がっていく過程において、後者のロジックこそが、より長期的な持続可能性を備えている可能性がある。
蘇CEOは、次の黄仁勲(ジェンスン・ファン)になることを目指していない。彼女は、自分自身であり続けることを選んだ——より実務志向で、よりオープンで、顧客により近い存在としての、半導体企業のリーダーとして。
そして市場は、明らかに7000億ドルという時価総額で、その選択に賛成票を投じている。