エージェント訓練には長年、一つのジレンマが存在してきました。クローズドシステムは性能が高いもののコードが公開されておらず、オープンソースフレームワークは柔軟性に優れるものの、主にオーケストレーションや評価の段階にとどまり、スケーラブルな訓練能力に欠けています。マイクロソフトリサーチが5月14日に提出したOrchard論文は、この溝を埋めようとする試みです。
コアコンセプト:軽量環境レイヤー
Orchardの核心はOrchard Envです。これは軽量な環境サービスであり、タスクドメインを横断して再利用可能なサンドボックスライフサイクル管理のプリミティブを提供します。特定のフレームワークに依存せず、異なるタイプのエージェント訓練を支えられるほどフレームワーク非依存(agnostic)に設計されています。
この環境レイヤーの上に、Orchardは3つのエージェント訓練レシピ(recipe)を構築しました。それぞれ、コードエージェント、GUIエージェント、パーソナルアシスタントをカバーしています。
Orchard-SWE:SWE-bench Verified で 67.5% を達成
ここが最もコアな部分です。チームはMiniMax-M2.5とQwen3.5-397Bから10.7万件の軌跡を蒸留し、credit-assignment SFTと呼ばれる技術を導入しました。これは未解決の軌跡から有用な中間断片を学習する手法です。さらに、Balanced Adaptive Rolloutを組み合わせて強化学習を実施しています。
結果:Qwen3-30B-A3B-Thinkingをベースに、SFT実施後SWE-bench Verifiedで64.3%を達成し、RL(強化学習)を追加することで**67.5%**に到達しました。これは同サイズのオープンソースモデルにおける新たなSOTAです。
Orchard-GUI:わずか400件の軌跡で十分
4Bパラメータの視覚言語モデルが、わずか400件の蒸留軌跡と2200のオープンタスクのみで、WebVoyagerで74.1%、Online-Mind2Webで67.0%を達成しました。オープンソースモデルとして最強の性能であり、クローズドシステムとも競合できるレベルです。
Orchard-Claw:パーソナルアシスタント
合成タスク200件のみで訓練を行い、Claw-Evalでpass@3 59.6%を達成。ZeroClaw harnessと組み合わせることで73.9%に向上しました。
意義
Orchardは、軽量でオープンソース、かつharness-agnosticな環境レイヤーがあれば、エージェントのデータ、訓練レシピ、評価を異なるドメイン間で再利用可能であることを証明しました。エージェント訓練に取り組みたいが、クローズドなインフラを持たないチームにとって、これは現在オープンソースコミュニティで提供されている最も包括的なソリューションの一つです。